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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)6810号 判決

原告

石川甲子三

ほか一名

被告

原義松

ほか一名

主文

一  被告両名は各自、原告石川甲子三に対し金六四六万七、三九四円及び内金五四六万七、三九四円に対する昭和四八年五月二二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告石川ちに対し金五一九万七、三九四円及びこれに対する昭和四八年五月二二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告両名のその余の請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を原告両名の、その余を被告両名の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告両名)

一  被告らは各自原告石川甲子三に対し金八三二万五、〇六五円及び内金七三二万五、〇六五円に対する昭和四八年五月二二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告石川ちに対し金七〇二万五、〇六五円及びこれに対する前同日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告両名)

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決。

第二主張

(原告両名)

「請求原因」

一  事故の発生

昭和四八年五月二一日午前七時五〇分頃、千葉県君津郡袖ケ浦町横田二二六番地先路上において、石川美喜江(以下「美喜江」ともいう)が女性用足踏自転車(以下「本件自転車」という)に乗つて菅生方面から馬来田方面に向つて進行中、同女の後方から被告原鶴次郎(以下「被告鶴次郎」という)運転の自家用普通貨物自動車(足立さ一六〇六、四・五トン積、以下「被告車」という)が走行して来た。そして被告鶴次郎は本件自転車をその右側から追越そうとしたのであるが、併進した際被告車左側油槽部分に本件自転車の後部荷台右側を接触させて美喜江を路面にたたきつけて頭部を強打させ、よつて同女を頭蓋底骨折により即死させた。

二  被告原義松の責任

同被告(以下「被告義松」という)は、被告車の所有者で、これに対して運行利益、同支配を有していたので自賠法三条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  被告原鶴次郎の責任

本件事故現場は、道路の両側に沿石が設置してあるアスフアルト舗装された歩車道の区別のない道路で、道路幅員は五・五メートルしかない狭い所である。そして被告車が本件自転車を追越す直前に被告車に対向して普通乗用車(サニー、車両一・五四五メートル)が進行して来たのであるから、被告車においてこれと離合して本件自転車を追越すためにはその直近を進行しなければならない状態にあつた。自転車の右側の直近を通り抜けることは自転車は不安定であり、追越しの際エンジンその他の音がすることや風圧もあるのであるから自転車がバランスを失つすることは充分予見できるところである。かかる場合自動車運転者としては一時停止もしくは徐行して事故の発生を防止すべき義務があり、さらに本件事故発生地点からわずかに前方約六メートルの道路左側には自転車が退避するのに充分すぎるほどのスペースがあつたのであるから同被告において減速して警笛を鳴らし被害者をこのスペースへ退避させた後に通過することもたやすいところだつたのである。

しかるに被告鶴次郎は時速約二〇キロに減速したもののそのまま追越しをはかり本件事故を惹起させるに至つたものである。なお同被告においても本件自転車を追越す際警笛を鳴らせば被害者を驚かせて逆に事故が生ずるかもしれないので中止した旨述べており、被告車が本件自転車の直近を進行したことは明らかである。

また本件自転車進行方向にとつて道路左側にあたる沿石外は、溝にコンクリートの蓋がしてあつて幅員五八センチあるも、歩行のみが可能で自転車による走行は不可能なので、美喜江がその内側を走行したことに過失はない。

よつて本件事故は被告鶴次郎の過失によつて生じたものであるから、同被告は不法行為者として損害賠償責任がある。

四  損害

亡美喜江は事故当時未婚で二〇歳であり、原告石川甲子三(以下「原告甲子三」という)、同石川ち(以下「原告ち」という)は同女の父母である。そして本件事故による損害は次のとおりとなる。

(一) 葬儀費用 三〇万円

亡美喜江の葬儀は原告甲子三において執り行つたが、その費用として右金額を請求する。

(二) 逸失利益 一、一〇五万〇、一三〇円

亡美喜江の稼働年数を四七年とみて、この間昭和四九年度の女子の平均賃金たる年額一一六万四、三三六円の収入はあつたと考えられるので生活費としてその五割を控除してライプニツツ方式により中間利益を控除してこれを現価に引直すと右金額となる。

(三) 慰藉料 八〇〇万円

各原告四〇〇万円宛で、合計右金額をもつて相当とする。

(四) 弁護士費用 一〇〇万円

原告らは本訴提起を弁護士に委任したが、その費用のうち右金額を請求する。

(五) 相続並びに損害の填補

原告らは亡美喜江の相続人として右(二)逸失利益についてはその二分の一にあたる五五二万五、〇六五円宛相続している。よつて原告甲子三の損害は右(一)、(三)、(四)並びに逸失利益の相続分の合計一、〇八二万五、〇六五円、同ちは(三)及び逸失利益の相続分の合計九五二万五、〇六五円となる。しかるところ原告らは自賠責保険から五〇〇万円(二五〇万円宛)の填補を受けたのでこれを差引くと残額は原告甲子三が八三二万五、〇六五円、同ちが七〇二万五、〇六五円となる。

五  結論

よつて被告らに対し原告甲子三は八三二万五、〇六五円及び内七三二万五、〇六五円に対する事故の翌日たる昭和四八年五月二二日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告ちは七〇二万五、〇六五円及びこれに対する前同日以降支払済みに至るまで同じく年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める次第である。

「免責の抗弁に対する答弁」

争う。前記のとおり本件事故は被告鶴次郎の一方的過失によつて生じたものである。

(被告両名)

「請求原因に対する答弁」

請求原因一項中、本件自転車、被告車の進行状況及び本件自転車が転倒して美喜江が死亡したことは認めるが、被告鶴次郎が被告車を本件自転車に接触させたとの点は争う。すなわち後記のとおり亡美喜江において自転車の運転を誤り転倒し、そのため事故に至つたものである。

同二項中、被告義松が被告車の所有名義人であることは認めるが、被告車につき運行利益、同支配を有していたことは否認する。

同三項本件事故現場の道路状況が大略原告ら主張どおりであること、事故前被告車が対向して来た乗用車とすれ違つたことは認めるが、被告鶴次郎に過失があることは争う。後記のとおり被告車が対向車とすれ違つたのは事故現場より一四メートル余も手前であり、且つ被告車は本件自転車との間を一・二メートルもとつて追越しを図つたのであり、本件事故は亡美喜江の自転車の運転操作を誤つたことにより生じたものである。

同四項中、亡美喜江が原告らの未婚の子であつたこと、及び原告らが自賠責保険から各二五〇万円の填補を受けたことは認めるが、その余の事実は否認し、且つ損害額は争う。

「免責の抗弁」

一  現場の道路状況は、大略原告ら主張のとおりで被告車の進行から見て事故現場の手前が国電横田駅に通ずる三差路となつている。被告鶴次郎は事故当時再三事故現場を被告車で通過しており、交通量の多い、交通標識等が不備な交通危険な個所であることをよく認識していたのである。

事故現場付近は、両側に沿石が設置されていて幅員は狭いが一直線で見通しは良く、且つ事故当時センターライン、追越し禁止標識がないから対向車がない場合は思い切つて中心より右に寄つて通過することが可能であつた。

二  被告鶴次郎は被告車を運転して菅生方面から本件事故現場に差しかかり、前記国電横田駅の方へ通ずる三差路の手前で、前方に女学生の乗つた自転車四、五台を認めた。そこで減速して停止状態でこの交差点に進入したところ、被害者亡美喜江の乗つた自転車以外はすべて国電横田駅に向つて交差点を左折した。同被告は道路前方を注視して対向車がないことを確認し、さらに被害者の乗つた自転車によく注意したうえ、これを追越すべく被告車の速度を毎時二〇キロ位にあげて右側に大きく寄つて自転車との間隔を充分にとつて追越しにかかつたところ、被害者美喜江はどうしたことか、自転車の運転を誤り、交差点から二つ目の沿石の手前右側に衝突して道路中央側に転倒し、被告車の燃料タンクに自転車の荷台を衝突させて道路上に倒れ、その際頭蓋骨々折となり死亡するに至つたものである。

なお被告車の左後輪に血痕が附着していたが、それは被告車が被害者に乗り上げたためではなく、被害者の顔が左後輪に触れ、被害者の口から出血していたものが附着していたものと認められる。

以上要するに被告鶴次郎は、終始被害者亡美喜江の動静に注意し、且つ自転車との間に充分な間隔を空けて追越しを図つたのに、被害者において運転の未熟なため進行方向に対し左斜めに大きくぶれて沿石に衝突して倒れたのであり、よつて事故発生につき同被告に過失はなく、被告らは賠償責任を負わない。

三  なお原告らは被告車は、追越し当時本件自転車に接近し過ぎていたと主張するが、被告車と接触したと思われる自転車の荷台の高さは約七五センチで、被告車の接触痕の高さは五五センチであるから、その差が二〇センチもあること、高さ一・一メートル、幅五五センチの自転車のハンドルが被告車と接触した痕跡がないことからすると両車の間隔は一・二メートル空いていたのであつて、かかる原告ら主張は失当である。

四  また原告らは、被告車が本件自転車を追越す直前対向車とすれ違つたと主張するが、被告車が対向車とすれ違つたのは三差路よりも菅生寄りの所であり、そして同車の後続車はなかつたのであり、仮にあつたとしても被告車が右側に進入するのに差し障りのあるような距離にはなかつた。そこで前記のとおり被告車は追越しのため大きく右に寄つたのである。従つてこの点の原告らの主張も事実に反するものである。

さらに本件自転車が空地に退避するまで追越しを待つべきであつたとの主張も、被告鶴次郎が付近道路に慣れていたとはいえ、そのような空地があることまで知るはずはなく、そして前記のごとく追越しに支障はなかつたのであるから、失当というほかない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因一ないし三項中、原告ら主張の日時場所で、被告車が本件自転車を追越し中、自転車が転倒して美喜江が頭蓋底骨折によつて死亡したこと、及び被告義松が被告車の所有名義人であることは当事者間に争いがないところ、被告らは、自転車の転倒は被告車の追越しとは無関係の亡美喜江の自損事故である旨主張してその責任を争つている。

そこで本訴での争点となつている自転車の転倒の態様について検討すべきところ、その前提として原・被告両車の走行経路、付近の道路状況、事故後認められた路上、原・被告車の痕跡等についてみるに、原本の存在、成立とも争いのない甲第一号証の二、同第三号証の一、二、成立につき争いのない甲第四号証、同第五号証の一、二、同第八号証、作成の趣旨から原本の存在、成立とも推認できる甲第六号証の一、二証人宗政勉、同秦野明の各証言、被告原鶴次郎本人尋問の結果を総合すると、

(一)  事故現場の道路状況、原・被告両車の走行経路は大略別紙図面(一)のとおりであること。

すなわち事故現場は、県道と国電横田駅とが交差する丁字路の馬来田よりの車道上で、県道は事故地点よりも馬来田方面に進んだところで左に曲がるが、事故現場付近は、平坦、ほぼ直線で前方の見通しは良く、両側に飛び飛びに沿石が設置されており、その外側は幅員約六〇センチの有蓋側溝の歩道となつているが、自転車の走行には適さないこと。

車道は、有効幅員約五・七メートル、アスフアルト舗装され、当時路面は乾燥していたこと、なお事故後追越し禁止の黄色の中央線が引かれたが、事故当時中央線はなかつたこと。

(二)  当時通勤時間帯で、被告車の前方に同方向に走行する自転車が五・六台あつたが、交差点で国電横田駅方向に左折し、本件自転車のみが直進したので、被告車は、事故地点の手前で対向して来た宗政勉運転の普通乗用車(幅員約一・五メートル)とすれ違つたうえ本件自転車を追越しにかかつたところ、左後方に衝突音を聞いたので停止したところ、被害者、本件自転車が進行方向斜めに倒れていたが、これら各地点、転倒の大略は別紙図面(一)に図示してあるとおりであつたこと。

(三)  事故後路面、原・被告両車を点検したところ、

(イ)  追越し地点左側の沿石の菅生側端に、自転車の前輪タイヤが接触したと認められる痕跡

追越し地点から本件自転車が転倒していた地点までの路面に自転車が転倒した際に生じたと認められる擦過痕

被害者が転倒していた地点の頭部にあたる所に血痕(以上いずれも別紙図面(一)に示してあるとおりである)

(ロ)  被告車の荷台下左側に取付けてある油槽(ガソリンタンク)に本件自転車と接触したと認められる擦過痕(前から二・九メートル、高さ五五センチ、荷台左端から約一二センチ内側の所)

被告車左後輪外側に血痕が付着

(ハ)  本件自転車の荷台は、これを支える左パイプの留めねじがはずれ、左後角が上にはねあがり、右後角が押えつけられたような状態で損傷し、被告車油槽のペンキが付着。

の各状態であつたこと。

(四)  本件自転車は、全長一・八メートル、ハンドルの幅五五センチ、ハンドルの高さ一・一メートル、荷台の高さ約七五センチであること。

被告車は、車長六・七四メートル、車幅二・一八メートルで、荷台の下に前記のとおり油槽が設置されていること。

そしてこれら原・被告車の大きさ、及び原・被告車に認められた痕跡を図示すると別紙図面(二)のとおりとなること。

(五)  前記のとおり被害者美喜江は頭蓋底骨折によつて死亡したのであるが、左眼球が露出していたこと。

の各事実が認められる

二  ところで、追越しを図つた時の被告車の速度につき、被告鶴次郎は事故直後の警察官による実況見分以来一貫して、被告車を時速四〇キロ位で運転して交差点に差しかかつたところ、前方に本件自転車及び対向して来る車両を認めたので時速二〇キロ位に減速して対向車とすれ違つたうえ本件自転車の追越しにかかつた旨指示、供述している。

前記のとおり付近は幅員が狭く、道路左側を併進する自転車もあつた状態で対向車とすれ違つているので、追越時の被告車の速度についての右供述は事実だと推認され、従つて被告車が減速したうえ追越しを図つたことは認めることができる。

また右認定の沿石の端に認められた本件自転車前輪によつて生じたと推認される衝突痕は、自転車が被告車と接触した後に生じたと考えられなくもないのであるが、被告らの主張するとおり、本件自転車は沿石と衝突して右に倒れかかり、そして荷台右側が被告車の油槽に接触したとみて相当であろう。

次に追越時の両車の間隔についてであるが被告らは、追越し時被告車と本件自転車との間隔は一・二メートルはあつたのであり、従つて自転車が沿石と衝突したのは被告車の追越しとは無関係である旨主張し、また被告鶴次郎も、事故後九ケ月余を経過してから検察官において、同被告立会のもとに実況見分をおこなつた時以来一貫して同様の指示説明、供述をしている。

しかしながら別紙図面(二)に図示してある原・被告両車の車長、残された接触痕の位置からすると、被告車の前部が本件自転車よりも約一・一メートル前方に位置した時に、右に傾むいた自転車の後部荷台が被告車の油槽と接触したことが推認され、さらに自転車の荷台の高さ、接触痕の位置からすると、その時の自転車後輪の地面との接触面と油槽側面との水平距離は理論上約五一センチで、油槽よりも約一二センチ外側にある荷台側面までの水平距離は三九センチ位であつたことが窺える。

両車の車首の方向、自転車荷台右側のどの箇所が被告車と接触したのか確定できないので、若干の誤差は考えられるが右のごとき転倒時の両車の前後関係、間隔は、本件自転車が被告車に追越された直後に転倒し、その際両車が極めて接近していたことを示しており、このことはすすんで被告鶴次郎の右供述とは異なり被告車が何らかの理由で本件自転車に直近して追越しを図つたこと、そして被告車の前部が自転車より前に出た直後自転車が転倒したことを示している。

右のごとき追越し状況からすると被害者美喜江が自転車を沿石に衝突させて転倒したのは、低速とはいえ車体の大きい被告車が突如直近を追越したのに驚愕して自転車のハンドル操作を誤つたためであると推認せざるを得ない。ちなみに被告鶴次郎は両車の間隔につき前述のごとき供述をする一方、追越し時接近していたので逆効果になつても危ないと判断して警笛を鳴らさなかつた旨の追越し時まつたく危険が予想されない状態ではなかつたことを窺わせる供述もしているものである。

三  以上の次第で、結局本件事故は被告鶴次郎において本件自転車との間に充分な間隔をおくことなく追越しを図つたため生じたと認められる。

なお被害者美喜江が道路上に倒れていた状態、受傷の程度、被告車後部左車輪に血痕が付着していたことからすると、同女は頭部を被告車に轢過されたのではないかと思われるのであるが、その点を明らかにすることはできない。しかし同女が被告車と接触後前方に大きく投げ出されていることからすると、いずれにしろ被告車との接触が直接の原因となつて同女が受傷、死亡するに至つたことは明白で、被告鶴次郎の右過失により同女が死亡するに至つたことは明らかで、同被告は不法行為者として同女の死亡による損害を賠償すべき責任がある。

被告義松は前記のとおり被告車の所有名義人であることを自認しており、従つて特別の事情のない限り被告車の運行供用者であると推認されるところである。本訴に提出された証拠による限りこの推認を覆えすに足る事情は見当らず、よつて同被告は自賠法三条によりやはり本件事故につき賠償責任を負うものである。

四  もつとも被告車が低速で追越しを図つていること両車の間に接近していたとはいえ間隔が置いてあつたことからすると、被害者美喜江の驚愕のあまり運転操作を誤つたことも過失相殺として斟酌すべきところとなるが、前記のごとき被告車の追い越し状況に鑑み、さして考慮できないところである。

五  そこで本件事故による原告らの損害についてみるに、亡美喜江が原告らの未婚の子であることは当事者間に争いがないところ、成立につき争いのない甲第二号証によれば、同女は昭和二七年一一月二四日生れ(事故当時二〇歳)で、原告らの三人あつた子の二番目で唯一の女の子であり事故当時原告らと同居していたこと、及び原告石川甲子三本人尋問の結果によれば同女の葬儀は同原告においておこなつたこと、がそれぞれ認められる。

右事実からすると、葬儀費用は、原告甲子三が請求している三〇万円をもつて相当と認められる。

次に亡美喜江の逸失利益であるが、原告ら主張の算出方法は相当であるが、昭和四九年度賃金センサスによれば女子の平均賃金は原告らの主張とは異なり年収一一二万四、〇〇〇円なので、これによると一、〇一〇万五、三二二円となる。そして右事実関係及び本件事故の態様(但し被害者美喜江の過失の点は除く)等を考慮すると慰藉料としては、原告らそれぞれにつき三五〇万円をもつて相当する。

そうすると原告らの損害は次のとおりとなる。

(一)  葬儀費用 三〇万円

原告甲子三において負担

(二)  逸失利益 一、〇一〇万五、三二二円

原告らがそれぞれ五〇五万二、六六一円宛(二分の一)相続した。

(三)  慰藉料 七〇〇万円

原告らそれぞれにつき三五〇万円

(四)  過失相殺、損害の填補

そうすると本件事故による損害は原告甲子三が八八五万二、六六一円、原告ちが八八五万二、六六一円となるところ、前記のとおり被害者美喜江にも若干過失があるのでこの点を斟酌してその一割を控除した、原告甲子三が七九六万七、三九四円、原告ちが七六九万七、三九四円の限度で被告らに対し賠償請求権を有するとみるのが相当である。

そして原告らそれぞれ自賠責保険から二五〇万円宛の填補を受けたことは当事者間に争いがないので残りの賠償請求権の元本は原告甲子三が五四六万七、三九四円、原告ちが五一九万七、三九四円となる。

(五)  弁護士費用 一〇〇万円

弁論の全趣旨に鑑み、本訴提起の弁護士費用は原告甲子三において負担したと認められるところ、本件訴訟の経緯、その内容、認容額に鑑み、その請求額は本件事故による損害と認め得る。

六  そうすると原告らの本訴請求は被告ら各自に対して原告甲子三において弁護士費用を加算した六四六万七、三九四円及び内弁護士費用相当の損害を除く五四六万七、三九四円に対する、原告ちにおいて五一九万七、三九四円、及びこれに対する、それぞれ本件事故発生の翌日たる昭和四八年五月二二日以降各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、これを認容することとし、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 岡部崇明)

図面(一)

〈省略〉

図面(二)

〈省略〉

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